井上ひさし 二十歳のころ
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20歳前後はのちの大作家をかたちづくる大いなる助走の時であった。
仙台一高を卒業し、上智大学ドイツ語科に入学した井上ひさし、上京とほぼ同時に映画雑誌に投稿した文章が掲載されるようになる。
前途洋々に思えた。しかし大学になじめず、方言のコンプレックスもあって吃音が悪化する。
夏休み、母親がいる岩手県釜石市へ逃げるように戻る。大学は休学。悶々と自分探しをする日々。
その年の11月、釜石療養所(おもに結核患者を診療する病院)に就職した。
以後2年5カ月、つまり19歳から21歳までこの山深い病院の事務職として過ごすことになる。
釜石市立図書館は24時間開館していたという。そこで片っ端から本を読んだ。文学全集、そして江戸時代の黄表紙洒落本の類。病院で見聞きした人間模様、そして本、この二つによって井上ひさしは徐々に「快復」していく。
上智大学フランス語科へ復学し、あの「モッキンポット師」が大活躍するようになるのだ。
20歳前後はのちの大作家をかたちづくる大いなる助走の時であった。
当時と関係してのおすすめ本=『花石物語』『新釈遠野物語』。
文:井上恒(井上ひさし研究家・川西町地域おこし協力隊)