写真:佐々木隆二


記憶に残るサービス精神


1992年夏、遅筆堂文庫生活者大学校開催中、川西町農村環境改善センターの2階で執筆中の井上ひさしさんと

翌年3月予定の公演、こまつ座「イーハトーボの劇列車」について雑談していた時のことである。

「これまで10年間一緒に仕事をしてきて、皆さんの仕事と宮沢賢治の仕事を重ね合わせる作品を

作らなければいけないと思ってるんです。賢治のイーハトーボとは別に芝居をきちんと書いて、

賢治三部作にしていこうと・・・」

もちろん、実現することはなかったが、心そそられる話に、うれしくなってしまった記憶がある。

相手の気持ちを即座に見抜き、言葉を駆使して話しかけてきてくれる。

まさに「サービス精神旺盛」な、井上さんのあの笑顔が思い出される。 (阿部孝夫)



数えてみれば


どなたもよくご存じのように(とは、井上ひさしが好んだ前置き)、西洋では12と13は表裏一体、

特別な意味を持つ。 13個を意味するbaker’s dozen(パン屋の1ダース)という表現もある。

かつて英国で、パンの目方に厳格な基準があって、違反すると罰せられた。

それを恐れて1ダースにつき1個余分につけた習慣から、と辞書にあった。

ウラジーミル・ナボコフの短編集『ナボコフの1ダース』に13編収められているのはこれをもじってのこと、

とこれもものの本による。 というわけで東西の鬼才の共演、われらがカトリシャンが福音書を書けば

こうなってしまう。『十二人の手紙』13編。

井上ひさし没して12年すなわち十三回忌。

仏教とキリスト教、妙なところで数のトリックが共通する。(井上恒)